5分バージョン:「想像の種を植えるだけの、簡単なお仕事です」

例えば、電気の物語。

昔の物理学者はあの得体の知れない、目にも見えないパチパチものについて一生懸命想像を膨らませた。なんなんだ、あの空から振ってくる巨大な光の柱は?パンを齧りながら、散歩しながら、他の学者と話し合った。夜なのに雷があるとあんなに明るくなる。もしかしたらあれで街を明るく灯せるようになるかもしれない。当時は夢物語だった。でも彼らはお話だけでは終わらせなかった。例えば「冬に鉄製のドアノブを握るとパチパチする」といった電気に関連する事象を見つけ、少しずつではあるが、具体的に自然界のルールを理解していった。パズルが組合わさっていくようだった。興奮した。なんと、事実の羅列を数字で具体的に表していくと、多くの事象が同じ式として理解できた。雷や静電気など、何の関連もなさそうな事象に、共通のルールが存在している事が不思議だった。あたかも神がこの世界を、あるルールに基づいて作り上げたかのように見えた。美しかった。

自然界のルールが理解できると、それらをうまく組み合わせていく事で、すごいことができることに気がついた。おい、磁石の上でコイルを回すだけで電気を作り出す事ができるぞ!自然のルールを記述した式を、ワインを片手に眺めていた一人の物理学者が気がついた。興奮した彼は、外も暗くなってきた時分に他の学者を集めた。暗くなった家の中で、焚き火にぼんやり浮かび上がったコイルを回すと、回路につないであった豆電球が光り輝いた。世界が変わった瞬間だった。それから今まで、電気によって灯された光がこの地球上で途絶える事は無かった。式によって表されたルールは自然界によって忠実に守られており、そのルールを論理的に、独創的に組み立てていくことで、新しい物を作り出す事ができる。それが実証された瞬間だった。

それから現代に至るまで、多くの自然界のルールが発見された。理論物理学者はそれらのルールを自由自在に扱う魔術師だ。灰色の蛾を色鮮やかな蝶に変えるように、時に複雑で秩序の無いように見える式から、シンプルで美しい現象を予想する。物理法則はクレヨンで、僕らの前には真っ白なキャンバスが広がっている。僕らは時に一人お茶を啜り、和菓子をほおばりながら、時にチョークを片手に仲間と黒板の前で話し合いながら、その無限大の可能性が潜む数式に心躍らせる。 次の世界の「明かりを灯す」ものは何なのか。想像力の手が届く精一杯の範囲を、独創力を持って自然界の式によって記述する事で、人類の未来が、未来の可能性が、広がっていく。

僕らは一生懸命に作り上げた想像の種を、論文という花壇に植える。この種はどんな花を付けるのだろうか、どんな実をならせるのだろうか。将来を信じ、多くの実験物理学者や、エンジニア、ビジネスマンが水をやり、栄養分を与え、その種を育てるのだ。その種がiPhoneといった大人気のテクノロジーを生んだし、光発電といった、未来の人類を救うかもしれない技術も生んできた。僕らの想像力で人類の想像力の基礎を作りたい。そんな大切な、未来の一歩を生み出す仕事が理論物理という職業である。

 

 

 

 

 

注:以上の記述は正確であるようにしてありますが、最優先事項としてより自然に楽しめる文章である事を心がけています。一部歴史的記述は必ずしも正しいとはいえないものも混じっていることをご了承願います。

2 thoughts on “5分バージョン:「想像の種を植えるだけの、簡単なお仕事です」

  1. 小学生の時。いつもの数学の先生が欠席だった。変わりに他の先生がお見えになりました。黒板に3桁の数字が書かれ、私の好奇心は何が?とときめき、ジッと耳を傾け、次々に変わって行くその数字に笑顔さえこぼれ、どんどん先生のパフォーマンスに心を開いて行った。即ち、3桁の数字になる様に、先生は足したり、引いたり、掛けたり、割ったり、いくつもの数字の組み合わせをして見せて下さった。そしてお教室を出て行く際に、”数学はとても美しい”。と言う言葉は残して...

    • とても素敵ですね!教えている科目が大好きな先生が生徒に触れる、それだけでその科目の魅力は何倍にもなるものです。何かが好きで、その想いを表情から、体全体から伝えられる先生が沢山いるといいのに、と思います。

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